熊本地方裁判所 昭和28年(行)16号 判決 1955年12月26日
原告 肥後製蝋株式会社
被告 熊本県知事
訴訟代理人 川本権祐 外二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は被告が訴外細川護立に対する買収令書により別紙物件目録記載の土地に対し同記載の各日時に為した買収並売渡処分は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、請求の原因として原告会社は明治三十年木蝋油脂類その他之に関連する化学製品の製造販売をその営業の目的として設立された会社であるところ、右設立と同時に製蝋原料である同実の供給源を確保するため別紙物件目録記載の土地所有者訴外細川護立から当時同地上に生立していた。
櫨木全部の無償譲渡を受け同時に櫨木の育成増植のため本件土地全部に亘り地上権の設定を設けた而して右地上権の存続期間は当初は三箇年地代年二百五十円と定め三年毎に期間を更新して来たが明治四十年一月中に期間を無期限とし地代は逐次増加し昭和二十一年より年二万円とし同二十三年度分迄は支払済であるところで本件土地は既に久しい以前から別紙物件目録記載の土地買受人又はその先代等に於ていわゆる木下耕作の名目の下に甘藷、野菜類の栽培に従事していたので原告が地上権を取得した後に於ても櫨木の育成櫨実採取の妨害とならない限度に於て木下耕作は許していたが之等耕作者と土地所有者である訴外細川との間には以前はともかく原告が地上権を取得した後に於ては直接の小作関係の存在しないことは勿論地上権者である原告と耕作者間に於てもいわゆる「又小作」と称する転貸借関係は存在しなかつたもので原告会社と耕作人等との関係は原告は耕作人等に対し櫨木の育成櫨実採取の妨害にならない限度にて木下耕作を許容する代償として耕作人等は原告所有の櫨実を採取した上毎年一定数量の櫨実を原告会社に納入し且つ原告の指示に従い櫨木の植栽手入を為すことなど労働の提供と木下耕作とが互に対価関係に立つ一種の無名契約が成立存在していたに過ぎない。
然るに水俣市農地委員会は昭和二十三年七月中本件土地を不在地主である細川の所有農地として買収売渡計画を樹立し之に基き被告は請求の趣旨の如き買収売渡の処分をしたものであるが
(一)本件土地に対する買収売渡処分は熊本県農地委員会の承認を経ずして為された点に於て形式的な違法がありかゝる違法は当然右処分を無効たらしめるものである。
即ち本件買収売渡処分の為された後ではあるが原告の陳情に基き県農地委員会は昭和二十六年二月十六日現地調査の結果同年三月一日の委員会で先に為した水俣市農地委員会の買収売渡計画に対する承認を自ら取消し同月十七日其の旨市農地委員会長に通知したので結局市農地委員会の樹立した右計画は県農地委員会の承認を得なかつたことに帰し従つて被告の為した買収売渡処分は県農地委員会の承認を経ずして為されたことになり当然無効たることを免れない。
仮に県農地委員会の為した右承認の取消が買収売渡処分終了後の故を以てその効力がないとしても本件買収売渡処分には以下の如き実質的違法が存在する。即ち
(二)本件土地は農地でないのに之を農地として買収したのは違法である、自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)は買収の対象となる農地につき同法第二条に於て「農地とは耕作の目的に供される土地」と定義しており「耕作」とは土地に労力を加え肥培管理を行つて作物を栽培することで櫨木の植林は主として製櫨の原料である櫨実を採取することを目的とするもので山林又は河川の堤防畑の畦畔などに植林せられることがしばしばで必ずしも肥培管理を必要としないので同条にいわゆる農地に該当しない、尤も本件土地は前叙のとおりその空地を耕作の用に供しておることは事実であるが本件土地は元来が櫨木の植林の目的に供したもので樹枝の交錯することをも考慮し木間を三間乃至四間置きとし植林しておるのであつて本件土地の利用関係はあくまで櫨木の植林が主で耕作者に許されておる間作は従であるから右間作の事実あるがために本件土地を農地と為すことはできない。
(三)本件土地が仮に農地であるとしても同土地は買収の対象となる小作地に該当しない即ち自創法第二条第二項に規定する小作地とは耕作の業務を営む者が賃借権使用借権その他の権利に基きその業務の目的に供しておる土地を指称するものであるが本件土地売渡の相手方となつた現在の耕作人等は既に述べたとおり本件土地を地主である訴外細川より直接賃借又は使用借りしておるものでもなく又地上権者である原告より転借しておるものでもないから同条の小作人に該当しないことは勿論で本件の場合強いて小作人が何人であるかといえばそれは地上権に基き本件土地に植林しておる原告会社ということになるが原告会社の本件土地の使用目的が農耕のためでなく櫨実の採取櫨木の植栽にあることは明白であるから本件土地が前条にいわゆる小作地に該当しないことは明らかで之を自創法第三条第一項第一号の不在地主の小作地として買収したのは違法である。
(四)本件土地の買収処分はその価格算定の基礎になつた事実の認定についても重大な誤謬を犯した違法がある即ち本件土地上には前叙の如く原告が地上権に基き十万本を超える櫨木を所有しておるのであつてたとえ土地そのものが小作農地として買収の対象となる場合を仮定しても原告が権限に基き右地上に植林した櫨木までが土地と共に買収されるいわれはないのに拘らず被告が本件土地に対する原告の地上権の存在に気づかなかつた当然の帰結として六千万円乃至九千万円の財産的価値を有する本件櫨木を土地所有権である細川の所有なりと誤認しその買収対価も土地立木を区別せず一括して決定しておるため土地の対価と櫨木の対価とは之を分割するに由なく土地の所有者は買収された土地の価格を又原告は買収された自己所有の櫨木の価格を何れも知り得ない状態であるのでかゝる誤つた価格算定に立つ買収処分従つて之に基く売渡処分により本件土地に対する原告の地上権及び櫨木の所有権に何らの消長を来さないばかりか右櫨木までを含めて買収したと主張する被告の本件買収並に売渡処分はそのため全体として無効たるを免れない。
(五)仮りに原告の以上の主張が総て認められないとしても本件土地の買収売渡処分は自創法第一条の目的精神に反する点に於て違法である抑々自創法の目的精神とするところは耕作者に地位の安定を与へ労働の成果を公正に享けさせると共に客観的には土地の農業上の利用を増進するものでなければならないのであるが本件の買収はこの何れの精神にも副わないものといわなければならない。何となれば本件土地には十万本以上の櫨木が生立し年産三十万斤以上の櫨実を生産し本件買収当時の価格は年産六百万円乃至九百万円の巨額に達するもので農林省に於ても本件櫨畑が全国無比の模範櫨林である事実を認め同省山林局長は本件土地が農地として買収されることを恐れ昭和二十二年一月十六日熊本営林局長宛に本件土地が櫨木の原料供給源として極めて大切な資源である旨を指摘して之が農地転換は極力避くべきである旨を通達し又熊本県知事は昭和二十一年五月二十八日熊本県櫨樹保護取締規則を発令して櫨樹の伐採を禁止したほどであるのに之を買収し千数名の耕作者に分割して売渡すに於ては櫨木の育成保存を妨げ櫨実収獲の減少を来たすことは必至であるうえに本件櫨地は元来不毛の土地を開拓したもので交通不便の山地に段々畑を形成している関係上施肥にも不便であるところからその大部分が甘藷、野菜類を栽培しておる現状では農産物の増産に多くの期待は持てないので土地の綜合的利用という見地からすれば却て損失の面が多いばかりか耕作者がいわゆる木の下作の名義で本件土地を耕作しながらその義務とされるところはたゞ櫨実の一定数量を採取し之を原告の指定する場所に運搬すれば足りそれ以外何らの小作科を納入する必要もなく而も運搬其の他の労力に対しては対価が又責任額以上の櫨実に対しては報償金が夫々支払われていた買収前の状態に比すれば却つて耕作者自身の経済状態も悪化するというほかなくこのことは自創法の精神とする耕作者の地位の安定に逆行するものであつて本件買収売渡処分は同法の目的に反する逸脱行為であり憲法第二十九条に反する違法処分として当然無効であると云わなければならないと述べ、
被告主張の本案前の抗弁に対し原告は本件土地に対し地上権を有し十万本を超える櫨木を所有するものであるところ若し本件買収売渡処分を有効とするならばこれにより原告の地上権が侵害されるばかりでなく本件櫨木の所有権が土地所有者に属するのもとの認定に基き土地と一体を為すものとして買収売渡の処分が為されておる経過に徴し原告はいわれなく櫨木の所有権をも喪失する虞れがあるので原告は本件土地の地上権者として又櫨木の所有権者として本件土地の売渡処分は勿論これが前提となる買収処分を共に一貫した処分行為としてその無効の確定を求めるにつき当事者たる適格を有することは勿論その確認を求める利益もあるので被告の抗弁は失当であると述べ本案に関する被告の答弁に対しては原告の有する本件地上権については未だ登記を経由していないこと本件櫨木は原告会社設立当初より会社の資産として貸借対照表並に損益計算書に記載されたことが無いこと並に之を原告会社の資産として熊本国税局に申告しなかつたため同局の原告会社に対する法人税決定決議書に課税対象として本件櫨木が登載されておらないことは認めるが原告会社としては本件櫨山から収納した櫨実については櫨実収納簿を作成し他から買入れた櫨実とは区別した取扱を為していることに徴しても本件櫨木が原告の所有に属することは明かであると附陳した。
被告訴訟代理人は本案前の抗弁として原告は本訴に於て被告が訴外細川護立の所有農地を自創法第三条に基く不在地主の小作地として買収並に売渡を為した各処分の無効確認を求めておるが自創法第七条が買収計画についての異議訴願権者を当該農地の所有者に限定しておる法意に照しても又無効が確認されたとしても買収された土地の所有権が買収前の所有者に復帰する迄のことで第三者である原告の地位には全く影響がなく法律上何らの利益も有しないことに徴しても原告はかゝる訴を提起するにつき当事者としての適格を欠くものとして本件訴は全部却下さるべきであるが仮に然らずとしても買収処分自体により地上権の消滅しないことは自創法第十二条第二項の明定するところであるからすくなくとも本件訴の内買収処分の無効確認を求める部分は確認の利益なく不適法として却下を免がれないと述べ、
本案につき主文同旨の判決を求め答弁として原告主張事実中被告が訴外細川護立に対する買収令書により別紙物件目録記載の土地につき各記載の日時にその主張のとおり買収並に売渡処分を為したこと被告が右処分を為すに当り本件土地に生立する櫨木を土地所有者細川護立の所有であると認め右土地及櫨木を一体として買収売渡の処分を為したこと、従つて之が買収価格の算定に当つても各別に定めることなく両者の価格を合算して決定したこと並に熊本県農地委員会が右処分完了後先に水俣市農地委員会の買収売渡計画に与へた承認を自ら取消した事実は認めるが其の余は総て之を争う。
(一) 行政庁がその為した行政処分を自から取消し得るのは処分につき異議訴願など不服申立のでき得る期間に限られるのが原則であつて期間の徒過によつて当該処分が確定すればそれは処分行政庁自体をも拘束し爾後取消は許されない特に一連の手続の連鎖によつてその目的とする行政処分の効力が決定される農地の買収売渡に於ては後続の処分が為された後にはその前の処分を取消し得ないことは当然で熊本県農地委員会の承認取消が被告知事の買収売渡処分終了後であることは原告も認めるところであるからかゝる承認取消により一旦効力を発生した本件買収並売渡処分が何らの影響を受けないことは勿論である。
(二) 本件土地は自創法に規定する農地に該当する。
自創法第三条にいわゆる「農地」とは耕作の目的に供される土地であり「耕作」とは土地に労力を加えて肥培管理を行い作物を栽培することで本件土地が久しい以前から甘藷、睦稲、麦、粟、菜種等の普通農作物の栽培を目的として肥培管理されていたことは原告も争わないところで只原告は本件土地は農作物でない櫨木の栽培を目的とするもので右普通農作物は間作に過ぎないから本件土地は農地に非ずと主張するものであるが本件土地の利用状況を客観的に見れば前記の普通農作物の栽培が農業経営の基本となつておりその畦畔に生立する櫨木の影響を多少蒙る以外は全く普通の熟畑に異るところのないことが明かでしかも櫨の実そのものが農学上特用作物中工芸作物の油蝋料類に属するものであり之が肥培管理されておる以上本件土地を農地と看做すに何ら支障はなく従来食糧供出の対象とされていること等に徴しても本件土地はいわゆる多角経営農地として自創法に定める農地であることに疑問の余地はない。
(三) 本件土地は小作地である。
本件土地に原告が地上権を有し原告と耕作人との間にその主張のような無名契約の存在するとの事実は否認する。
元来本件土地は細川家伝来の所有山地であつたところを現耕、作人等の祖先が開墾し細川との間に櫨の実の一定量を小作料として納入する約定の下に普通農作を目的とする賃貸借契約を締結し爾来現耕作人に至る迄賃借権に基き耕作の業務を営んで来たものでこの関係は原告会社設立後に於ても何ら変るところはなく本件土地が自創法にいわゆる小作地に該当することは勿論であつて原告会社はその主張の如き地上権の存しないことは原告会社設立以来今日迄未だその趣旨の登記手続を経由していないことに徴しても亦土地所有者細川護立が本件土地を財産税の物納として申告した際にも右地上権の記載もなく且つ原告会社備付の貸借対照表や損益計算書等にも何らその旨の記載の為されていないことによつても明かというべく只原告会社と細川との特殊関係よりして原告会社は単に本件地上の櫨実を事実上製蝋原料に使用していたに過ぎない。
以上述べたとおり本件土地は農地であり且つ小作地であるが仮に本件土地が小作農地でないとしても右に述べたような事情の下に原告が之を小作農地と認定して買収並に売渡の処分をしたことは真に止むを得ないもので重大明白な瑕疵があるとは認められないので取消の理由とはなつても之を無効とは為し得ない。
(四) 本件土地に生立する櫨木が原告の所有であることは否認する。
右櫨木は農地の構成部分であるから之と一体を為すものとして買収価格を算定したまでのことでこの点に関する原告の所論には反対である。
元来本件地上に生立する櫨木は総て訴外細川の植裁したものであるがその内若千本が原告の植栽になるものであるとしてもそれは権原なくして植樹したものであるから民法附合の原則により当然その所有権は土地の所有者である細川に帰属することは当然である。なお仮に本件櫨木が細川より原告に譲渡されたものであり又原告が権原に基き植栽したものであるとしてももともと土地に生立する樹木は立木法により登記又は明認方法を施すことによつて始めて独立の不動産として取扱わるべきもので斯る方法を講じていない本件櫨木は性質上独立の不動産と看做すことを得ず従つてかゝる樹木の所有権はいかなる場合でもこれを他に向つて主張することができず独立の権利として保護を受け得ないものであるから、之を土地所有権の構成内容を為すものとして買収したことは当然である。而してその場合本件櫨木の買収価格を土地と別個に算定することを要せず単に土地の買収価格を決定するに当り竹木としての右櫨木の価格を考慮に入るれば足りることは未墾地買収に於ける自創法第三十一条削除の同法施行令第二十五条の規定の趣旨に照し当然といえるので本件買収処分に当つては櫨木の生立による普通農作物の減収と櫨実による増収とを彼此綜合し普通畑の買収価格の算定基準である賃貸価格の四十八倍の価格を以て買収価格と算定したのであるから、本件買収価格の算定に於て何らの違法はないが、若し被告主張の右法理論が理由なく本件櫨木の所有権が独立の権利の客体となり而も原告会社に属するものと認められたため本件買収価格の算定に何らかの違法があつたとしても既に述べたとおり原告会社備付の帳簿類によつても櫨木の所有権が原告会社に存することの明かな徴憑はないから、之を土地所有者である細川の所有と認めて買収価格を決定したことに重大且つ明白な瑕疵ありとすることはできないのでこれにより本件処分を無効とすることはないのみならず右櫨木の所有権の誤認は単に本件農地の買収処分が櫨木に及ばないというに止まり土地そのものに対する処分としては何ら効力を左右されることはない。
(五) 本件土地の買収売渡処分は自創法第一条の目的精神に合致する。
元来本件土地の所在する水俣地方は地勢上農地が狭少であるため農民等は寸土と雖も耕地に適する土地は之を開墾して農地の拡大を図りたい意欲からして本件土地買受人等の祖先が細川家より山地を借受け営々として開墾した結果本件農地の実現を見るに至つたもので櫨の栽培採取の如きは農民にとつては寧ろ迷惑であつたが農地ほしさの故にいわゆる「木下作」の名義を以て櫨実の物納による細川家との封建的小作契約に甘んじていたものでかゝる封建色の濃厚な小作関係を打破し土地を耕作農民に解放することこそ自創法第一条にいわゆる自作農の創設による農村に於ける民主的傾向の促進を図る所以であつて本件土地の買収売渡が同条の目的精神に反するとの原告の主張にも賛成しがたい。
以上何れの点からしても本件買収並売渡処分には原告主張の如き無効原因は存在しないので原告の本件請求は当然棄却せらるべきであると述べた。
<立証 省略>
理由
先づ本案前の抗弁につき按ずるに被告が別紙目録記載の土地及び地上櫨木を訴外細川護立の所有に属するものとして買収売渡処分を為したことは被告の認めるところであるから右処分により本件土地に対して有する地上権並びに右土地に生立する櫨木の所有権を喪失する虞れがあると主張する原告が右処分の無効確認を求める本件訴に於て正当な当事者となり得ることはもとよりこれが即時確定につき法律上の利益を有することも勿論といわなければならない。被告は自創法第七条が買収画計に対する異議訴願権者を土地所有者に限定しておることに徴し原告は本件訴に於て正当な当事者となり得ないと主張しておるが同条は只土地所有権者に買収計画の段階に於て既に異議訴願権を認めた趣旨に過ぎず同条の反対解釈として土地所有者以外の者は如何なる場合に於ても買収売渡処分の無効確認を求め得ないと為すことは頗る論理に飛躍があつて賛成できない。
被告は又本件買収売渡処分が無効となつても土地所有権が買収前の所有者に復帰するだけのことで第三者である原告の権利関係には何等の影響もないのでこの点に於ても原告は正当な当事者としての適格を欠くと主張するが本件の買収処分が若し本件土地に対する原告の地上権を認めた上の買収処分であつてみれば或は地上権者は同法第二十二条第二項による損失補償のみを以て満足すべきであるとの見解も成立しないわけではないが被告は本件土地に対する原告の地上権並に地上に生立する櫨木の所有権を否認し櫨木を訴外細川の所有なりとし土地櫨木を一体として買収し且つ売渡したのであるから被告により否認された地上権並櫨木の所有権の保護を求める手段として原告が自ら当事者となつて右買収並に売渡処分の無効確認を求め得ることは明かであるから被告の右主張も採用の限りでない。被告は亦農地の買収処分のみによつては原告の主張する地上権は消滅しないので本件訴のうち買収処分の無効確認を求める部分はいかなる点からしても確認の利益がないと主張するが前叙のとおり原告の地上権を認めて買収したのであれば格別これを否認して買収処分を為したものである以上、確認の利益のあることは勿論既に売渡処分も為されておる以上、一貫する処分として買収並に売渡処分の無効確認を求めることは寧ろ当然というべく被告の本案前の抗弁は全く理由がない。
仍て本案につき判断する。別紙物件目録記載の土地がもと訴外細川護立の所有であつたこと、被告が同目録記載の日時に、右土地を不在地主所有の小作地として買収し、同目録記載のとおり之を売渡したこと、被告が右処分を為すに当り本件土地に生立する櫨木を土地所有者である同訴外人の所有と認め右土地及櫨木を一体として買収、売渡の処分を為したこと、従つて之が買収価格の算定に当つても各別に定めることなく両者の価格を合算して決定したこと並に熊本県農地委員会が右処分完了後先に水俣市農地委員会の買収売渡計画に与へた承認を自ら取消した事実は当事者間に争がない。
(一)原告は本件土地に対する買収売渡処分は右のとおり熊本県農地委員会に於て、買収売渡計画に対する承認を取消したので結局県農地委員会の承認を経ずして為されたことに帰し無効たることを免れないと主張する。行政行為の取消とは行政行為の効力を失はしめるための別個の行政行為のことであつて権限ある監督官庁がその権限に基き下級官庁の行政行為を取消し得ることは勿論、当該行政処分を為した行政官庁自体に於てもその為した行政処分に法律上の瑕疵があることを発見した場合には、その性質が取消を許さない場合を除いては、いつでも自ら取消すことができるのであるが(被告は行政処分の取消可能な期間は異議訴願等不服申立の出来る期間に限ると述べておるがこの所論は首肯できない。)然し形式的には別個の行政行為であつても、互に関連する手続の連鎖によつて、全体としての行政処分の効力が決定されるような場合には後続の行政処分が為された後にはその前の行政行為は自ら之を取消し得ないと解するのを相当とする。
元来市町村農地委員会の樹立した買収売渡計画に対する県農地委員会の「承認」は、これが与へられることにより右計画が行政処分として確定すると云う意味に於て、これを独立の行政行為と看做し得るか否かについても疑問なしとしないが仮に之を県農地委員会の為す行政行為であるとしても一旦有効に為された「承認」に基き買収売渡の手続が完了した後に於て県農地委員会が自ら為した「承認」を取消すことは関係人の利益を害し法的安定を破ることになるので許さるべきでなく右「承認取消」そのものが無効というの外はない。本件に於て熊本県農地委員会の為した承認の取消が被告知事の買収売渡処分の終了後であることは原告も之を認めるところであるから右承認取消により一旦効力を発生した本件買収並売渡処分が何らの影響を受けないことは勿論で原告の右主張は採用の限りでない。
(二)原告は本件土地は農地でないのに之を農地として買収したことは違法であると主張する。自創法第二条にいわゆる「農地」とは耕作の直接の対象となる土地の謂であつて「耕作」とは土地に労力を加えて肥培管理を行つて作物を栽培することであるがこゝに肥培管理とは植物の生育を助けるため、その土地に施される開墾、耕作、灌漑、排水、施肥等一連の人為的作業の総称で、要するに肥培管理がその育成についての本質的要素となつているような植物がこゝにいう「作物」でありその作物を育成するため土地について肥培管理を行うことが「耕作」であるといえる。原告は櫨畑はこの意味に於ける農地でないと主張し、被告は農地なりと反論するのであるが、ひとしく櫨林、櫨畑といつても、櫨木の生立しておる状態、肥培管理の程度又は其の実態が専ら櫨実の採取にあるか否かなどにより農地と看做し得ることもあるし又然らざる場合もあるのであつて、それは同じく「竹林」と云つても専ら竹林をとることが目的である場合は農地とは認められないが、筍の採取が主目的でこのため肥培管理が行はれておる場合は農地と認められるのと同一といえる。即ち或る土地が農地であるかどうかはその土地の事実状態に基き客観的に判定すべきであつて、その土地の持主なり使用主なりがその土地を利用する主観的意思は土地の事実状態を客観約に判定する場合の参考資料となることはあつても土地が農地であるか否かを決定する基準となるものではない。そこで本件土地に於ける櫨木の生立の状態及び樹間の耕作状況など本件土地の事実状態を検証の結果により観察するに、本件櫨木の生立する地所は大きく三箇所に区分されるが何れも山地を開墾したいわゆる段々畑の形態を為しておりそのうちの畑一枚のみが横三間半縦三間の間隔に計二十四本が整然と植樹されておるほかは、概ね畑の周囲に三間乃至四間、ところによつては十間置きくらいの間隔で櫨木が生立しており櫨木の生立しておる場所以外は普通の畑として甘藷、野菜等が栽培されていた状況で、右検証の結果に証人松本武義、同牧尾則秋、同村田清八の各証言並に証人永原邦彦の証言の一部を綜合すれば本件土地は旧細川藩時代に於て、既に概ね現状の如き形態に開墾され、畑の周囲に櫨木が生立しておる点を除いては全く普通の畑地と同様耕作の用に供せられ、且つ食糧供出の対象ともせられていた事実が認められるので原告会社並に本件土地所有者である訴外細川の本件土地利用の主観的意思が専ら櫨実採取のための櫨木栽培にあるとしてもそれらの主観的意思とは関係なく本件土地を農地なりと認定し得ることは勿論である。原告の主張は理由がない。
(三)本件土地は小作地に該当しないとの原告の主張につき検討する。原告は本件土地の現在の耕作人等と土地所有者である訴外細川との間には賃貸借又は使用貸借関係は存在せず、同人等が現在本件土地を耕作しておるのは原告会社との無名契約に基き、櫨木栽培の妨害にならない限度に於て木下耕作を許されているに過ぎないと主張するのに対し、被告は現在の耕作人等は訴外細川護立との賃貸借契約に基き本件土地を耕作しておるのであつて原告会社には本件土地につき何らの権原はないので本件農地が小作地であることは勿論であると抗争する。先づ本件土地と本件土地の耕作者との関係を沿革的にみるに証人永原邦彦、同細川護貞の証言によれば本件土地は旧藩当時から細川家の所有に属していた山地であつたのを約二百年前に当時の細川藩主がいわゆる手元金を以て製蝋事業を始めるに当り領民に命じて開墾させて畑地となしその畦畔に製蝋原料である櫨実採取のため櫨木を植栽せしめたのに始まることが窺われるので原告会社設立以前の細川当主と農民との関係がいわゆる「上納」と云う形式により櫨実の一定数量を小作料として納付する一種の賃貸借契約により結ばれていたことは想像に難くない。ところで明治三十年原告会社設立と同時に従来細川家個人の事業であつた製蝋事業が原告会社に引継がされたことは同証人等の証言により明かであるがその際同事業のための重要資源である本件櫨畑の管理方法がいかように定められたかを以下証拠により検討する。先づ本件認定の重要資料となる木下作証書(乙第一号証乃至十六号証第十八号証乃至二十一号証)によれば、その名宛人が「細川護立代理肥後製蝋株式会社々長」となつており且つ同号証中(乙第三号証等)には本件櫨畑とは関係のない水田や宅地の含まれているのもあるのでこれを以てみれば右小作契約の当事者は訴外細川護立と耕作者であるやにも見えるが然し証人永原邦彦、同本田弘一等の証言により明かなとおり原告会社は細川家を大株主として設立したものでその社長はいわば細川当主のお声がかりとして就任する細川の身代り社長であつてみれば永原証人の指摘する如く右木下作証書の宛名に「細川護立代理」の文字を表したのは細川家と農民との従来のつながりを象徴するほか他意はなかつたともみられるし、又木下作証書中の一部に、本件櫨畑と関係のない水田や宅地が含まれているのも元来本件土地はその貸主が細川であるか原告会社であるかはしばらくおき右木下作証書によれば、いづれも三年目毎に期間を更新する形式により耕作人等に貸与されていたものと認められるところ、原告会社代表者津田秀秋の供述(一回)にもあるように、その過程に於て土地の一部が水田や宅地に変更された場合でもこれを証書面より除外することなく従前の例に倣いそのまゝ貸付面積のうちに記載していたともいえるので同号証のみによつて原告会社設立後も細川と農民との間に従前どおりの小作関係が継続されたものとは為し得ない。却つて原告会社代表者津田秀秋の供述(第一、二回)により成立を認め得る甲第一乃至十六号証同第十八乃至三十六号証第五十、第五十一号証第五十三号証の一、二、同第五十五号証の一、二、同第五十六、五十七号証同第六十四、第六十五号証成立に争のない同第四十一号証に前記各証人並に証人角居関太郎、同紫垣進の各証言、証人松本武義、同牧尾則秋、同柿本辰彦の各証言の一部を綜合すれば、原告会社設立と同時に細川は本件櫨畑に生立する櫨木の所有権を原告会社に無償譲渡し土地に対する耕作人等との賃貸借契約は一応解除して之を原告会社に賃貸し、(地上権の設定ではない)爾後本件土地の管理一切を原告会社に委ねたので原告会社は爾来自己の責任と費用とを以て櫨木の増植、品種の改良等に努める一方、本件土地は引続きこれを従前の耕作人等に転貸し本件櫨実の一定数量を賃料として耕作人等より収納していたことが認められる。尤も耕作人等としては従来製蝋事業が細川家の個人経営であつた当時、同家の水俣蔵屋敷に小作料として納入していた櫨実を原告会社設立後はそのまゝ原告会社出張所としての同所に納入していたことになり原告会社設立の前後を通じ耕作者の地位には何らの変更はなかつたかの如くであるが然し原告会社の設立を契機として三者間の関係が法律的には、すくなくとも前叙の如き権利義務の関係に結ばれたとみることが本件に顕はれた前記各証拠と三者間の歴史的背景を通して最も事実に合致したものといえる。この点に関する原告の無名契約説は右認定により明かとなつた事実関係に殊更目を覆い本件土地を小作地に非ずと為すがための強弁であり、被告が又原告会社に本件土地につき何等の権利なしと主張するのは後に述べるところにより明かなとおり原告の権利を無視して為した本件土地の買収処分の非を覆わんとするがための現実無視の論であつて何れも賛成しがたい。
ところで本件土地の買受人等が土地の売渡を受けた当時すくなくとも本件土地のうち櫨木の生立している以外の部分に普通農作物を栽培していたことは原告と雖も之を認めるところで、右農作物の栽培が単なる間作の程度を超え、これら耕作者の主たる生業として営まれていたことは前記松本、牧尾、柿本の三証人の証言並に証人村田清八の証言によつても認め得るところで結局本件農地は耕作の業務を営む本件土地買受人等が前記認定の転貸借契約による賃借権に基きその業務の目的に供しておる土地といえるので之が自創法にいわゆる小作地に該当することに何ら疑問の余地はない。この点に関する原告の主張も亦理由がない。
(四)原告は本件土地が農地であり且つ小作地であるとしても本件土地に生立しておる櫨木は原告が地上権に基き所有しておるもので被告はこれを訴外細川の所有なりと誤認し土地と共に買収して売渡したので、かゝる買収売渡処分は買収価格算定の基礎となる事実を誤認したこととなり処分全体として無効であると主張するのに対し被告は本件土地に生立する櫨木は原告が訴外細川より譲渡を受けたものでなく、又権原に基き植栽したものでもないが、仮にそうであるとしても立木法による登記又は明認方法を施しておらないので独立の不動産と認めることを得ず本件農地と一体を為すものとして之を買収し得ることは当然であると反論する。そこで先づ自創法に於て立木又は立木でないその他の樹木が如何なる形で買収の対象とされているかを検討する。
元来自創法及関係法令にいう立木とは立木法にいう立木もしくは独立の権利の客体としていわゆる明認方法を施した樹木の集団を指し竹木とは右にいう立木以外の樹木を指すものと解し得るところ当時適用のあつた自創法によれば農地の上に、右の立木が存在する場合については全く規定を欠いているが未墾地又は牧野の上に存在する立木について特にその地盤たる土地の買収処分とは別個にこれを買収処分の対象としておることに徴し、農地の上に立木の存する場合も地盤たる農地の買収処分は当然には地上立木に及ばないものといわなければならない。次に農地の上に右にいう立木以外の樹木即ち竹木の存する場合につきかゝる樹木ある農地の買収価格の算定についても当時適用のあつた自創法及附属法令は樹木に関し何らの規定をも置かなかつたがかゝる竹木はこれがその地盤である土地と別個の所有者に属するものと認められる場合を除いては土地と共に一個の不動産として所有権の客体となるのでその買収価格も自創法施行令第二十五条(昭和二十五年十月政令第三一六号により削除されるまでのもの)の類推解釈により右竹木の価格と土地の価格を合算して決定すればよいのであつて各別にその価格を算定する必要はないと考えられる。ところで本件土地上に生立しておる櫨木が右にいわゆる立木に該当せず立木でない樹木即ち竹木に該当することは原告も認めるところであるから結局原被告の争点は本件櫨木の所有権が何人に存するか及之が地盤である農地と別個の所有権の客体となり得るか否かということに帰する。そこで本件櫨木と土地の所有権がいかなる牽連関係に立つかということであるが既に前項に於て説明したとおり原告会社はその設立と同時に、本件地上に生立していた櫨木を当時の所有者細川より譲渡を受けると同時に櫨木の栽培の目的で右土地に賃借権(地上権ではない)の設定を受けたのであるから右譲渡当時の櫨木は勿論爾後原告会社が本件地上に権原に基き栽植した櫨木の所有権が総て原告会社に存することは明白といえる。被告は立木法による登記又は明認方法を施してない樹木は当然地盤である土地の構成部分として同一所有権の客体となるものでいかなる場合といえども独立して権利の客体となり得ず、その所有権を他に主張することはできないというのであるがそれは明かに法の誤解という外はなく立木法による登記又は明認方法を施してない樹木はそのまゝの状態で独立の不動産とはいえないが土地と分離して譲渡の目的と為し得ることは、つとに判例の認めるところであり又賃貸借に基き畑地に栽培した竹木が賃借人の所有に属し畑地の所有者に帰しないことは民法第二百四十二条但書の規定に徴し疑をいれないところであるから本件地上の櫨木の所有権は前記認定したところに従い土地所有権とは独立して原告会社に属することは当然といわなければならない。ところで被告が右櫨木を土地と一体を為す農地の構成部分として、之を土地所有者である細川護立より買収し且つ前記耕作人等に売渡したことは被告の認めるところであつて同訴外人に対する買収売渡処分により原告が本来所有する櫨木の所有権を失うことのないことは自創法による農地買収処分について民法第百七十七条の適用されないことから類推して当然であるがかゝる事実認定を誤つた買収売渡処分は地盤である土地そのものゝ買収売渡処分までを無効とするものであるか否かにつき判断する。
元来無効確認の対象となる行政処分は当該行政庁が自ら為したと主張する行政処分であるから本件に於ても被告が右櫨木を土地と共に買収して売渡したと主張する以上、右櫨木を含めての買収売渡処分が訴の対象となることは明かで而もすでに説明したとおり右買収処分は、その重要部分である櫨木の所有関係について認定を誤つておるのであるから本件買収売渡処分は全体として無効となるとの議論も単に形式論の上からすれば成り立たないわけではないが、然し自創法が未墾地買収の際、立木は別個に買収し竹木は地盤である土地と合算して価格を算定することを定めておるのは土地の買収に当り、その地上に生立する立木又は竹木の所有権を保護する趣旨であることに疑問の余地はなく、このことは農地の上に立木又は竹木の存する時も同様といえるので要は土地の買収処分を為すに当り立木又は竹木の所有権が適当に保護さるれば足りるのであるから本来土地と共に買収することのできない櫨木を土地と共に買収したからといつて買収の要件を具備する本件土地そのものゝ買収処分までを無効とするものではない。原告は本件土地の買収価格中には買収することのできない右櫨木の価格も包含されており右価格中のいくばくが櫨木の買収価格に相当するかを知ることができないのでかゝる価格算定を誤つた買収処分に無効であるとも主張しておるが本件に於て買収売渡処分が無効でないというのもそれは地盤である土地そのものゝ買収売渡処分が無効でないというにとどまり右処分中には被告の意思如何にかかわらず本件櫨木の処分は含まれていないことに帰するので右買収処分により原告の櫨木の所有権が失われないことは勿論であるから原告は本件土地の買受人等を相手としてその所有権を主張すれば足るし、又売渡処分により消滅した賃借権については自創法第二十二条第二項に基き国に対し損失補償を求める手段が認められておるので原告の右主張も亦理由がない。
(五)原告は以上の主張が総て認められない場合でも本件土地の買収売渡処分は自創法第一条ひいては憲法第二十九条の目的精神に反するので無効であると主張するので更にこの点につき判断する。
原告の主張する理由の一つは本件櫨畑が製蝋原料の供給源として極めて重要な意味を持つため本件土地の農地転換は客観的に土地の農業利用を増進しないというのであつて、本件櫨畑が櫨実の供給源として相当価値の存すること及そのため農林省山林局長が熊本営林局長宛に本件櫨畑の農地転換を避くべき旨を通達したこと並に他府県に於て、この種の櫨畑が買収処分より除外されている事例の存することなどは、検証の結果に証人中島進の証言により成立を認めうる甲第四十号証の一、二、成立に争のない同第四十一号証及同証人の証言を綜合して認め得るので本件土地を櫨畑のまゝ存置し買収より除外することが本件土地を綜合的に利用するということからして得策であるかどうかということについては、なお若干の問題は残るであろうが丁面本件土地を買収してこれを小作人に売渡すことが農民の耕作意欲を増進し土地の農業利用を増大することに疑問の余地はない。原告はその理由の二として本件土地の買収売渡処分により小作人の地位は安定せず却つて経済的には買収前より悪化するというのであるが、仮にその主張する如く本件土地の買収前の細川家並に原告会社と小作人等との関係が円満かつ相互扶助の精神の下に結ばれていたとしても、それは本質的には大地主及びその事実上支配する企業会社庇護の下に農民の生活が不安なく営まれていたというにとゞまり、そのこと自体がいわゆる封建的主従の関係をものがたるものであるから、小作人等に地主とのかかる従属関係を断ち切らせ自らの意思と責任に於て農業経営を可能ならしめるために本件土地を解放することは自創法の目的とする耕作者の農地取得を推進するという精神に合致するものといえるので本件買収売渡処分が同法の目的精神ひいては憲法第二十九条に違反するとの原告の右主張にも賛成できない。
果してしからば本件土地の買収並売渡処分には原告の主張するように、これを無効とするほどの違法は存しないというべきであるからこれが無効であることの確認を求める原告の請求は失当として棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 浦野憲雄 田原潔)